「めくる楽しみ、そこに広がる繊細な世界」

  • 美術

版画で身近なものといえば「木版画」。みなさんは、小学校で経験があるのではないでしょうか。
その中での「銅版画」というワード。「銅」で版画?あまり想像がつかないかもしれませんが、銅版画は15世紀半ばからヨーロッパで発展したもので、日本では江戸時代後期から始まり、明治時代に紙幣や新聞印刷の技術として利用されました。

銅版画は、たくさんの技法があり、その中にドライポイントやエッチングがあります。
ドライポイントによる銅版画の工程は、以下の通りです。
⑴ 銅板に、ニードル(先端が針状に尖っている道具)で、引っ搔きながら線を描く
⑵ 凹部(溝)にインクを詰め、それ以外の部分についたインクをふき取る。
⑶ 湿らせた版画用紙を版の上にのせ、プレス機で強い圧力をかけて、インクを紙に転写する。
(エッチング技法の工程は、防食剤(金属の腐食を防ぐもの)を塗った銅板を使用し、上記⑴と同じように描く。銅板を腐食液(塩化第二鉄水溶液など)に浸し、露出した線部分のみ腐食し、そこが溝となり、彫られる。腐食液からあげたら、水洗いをし、有機溶剤で残った防食剤をきれい落とす。それ以降は上記(2)と同じ。)

下準備を入れると、銅版画の工程はもっと多く、これを個人でやるのはハードルが高く、プレス機がないとできない、これが致命的です。

 令和8年2月から3回に渡って実施された、「まどかぴあ版画制作講座」(ドライポイント)に行ってきました。

 少し興味がある、ちょっとやってみたい、気になっていたけど工程が多すぎて一人でやるのは難しいかもと感じる人たちにとって、このワークショップは「もってこいの体験」だと思いました。
 今回は、物価高騰により銅版の購入が予算的に難しく、使ったものは100円ショップで購入可能なプラスチック板。大野城まどかぴあの職員の方々の、費用面と折り合いをつけながら、銅版画の体験をしてほしいという想い、「できない、やらない」ではなく、「やるための工夫・努力」を感じました。
講師の古本先生(大野城まどかぴあが主催する版画ビエンナーレの審査員でもあり、東亜大学客員教授かつ芸術家)が、丁寧かつウィットに富んだ発言で参加者の緊張を和らげ、スムーズに作品に取り掛かる環境作りをされました。
参加者の方々は各々、思い思いの絵(人物、習字、花、おひな様、動物)を描かれ、みなさんの歩んできた人生、趣味嗜好の一部を見せてもらった気がしました。真剣に作品に取り組む姿勢、古本先生の銅版画を愛して広めたいという姿勢、それを支援し、助手として参加した於保さんのアシスト、個々で作品を作っているのですが、向かうゴールは、プレス機での版画の完成に、不思議と一体感を感じました。
銅版画は、プレス機で強い圧力をかけ、最後に紙をめくってみるまでは、自分の作品がどのように、インクが染み出て、完成するか分からないドキドキ感があります。
プレスが終わり、紙をめくるたびに、参加者の喜びや落胆の声が聞こえ、そこには「めくる楽しみ」があり、めくった後にはニードルの線で描かれた「繊細な世界」が広がっていました。
 日常ではなかなか体験できない銅版画ですが、「大野城まどかぴあ」では令和8年4月に「版画工房 in まどかぴあ」が期間限定で行われ、銅版画作成に欠かせないプレス機を利用できる企画がありました。
 参加者のみなさんは初対面同士ということものあり、最初は黙々と作品作りに没頭していましたが、最後はやり遂げた達成感と共にお互いの作品の感想を話して和気あいあいとした雰囲気に。素敵なワークショップを見学させてもらいました。